ゴールドマン・サックス大増益
この一ヶ月ほど株式市場は世界的にさえない展開が続いてきましたが、7月14日(火)のゴールドマン・サックスの4-6月期決算が久々に市場に花を咲かせました。
ゴールドマンの決算は多くの巨大金融機関の先陣を切る形で発表されたのですが、その数字は大方の予想をはるかに上回る結果で、今後発表される他の金融機関の決算も「おそらく良いのだろう」という期待を抱かせるに十分なものでした。
どのくらい良かったかというと「四半期ベースで史上最高」です。これには正直筆者も驚きました。そしてさらに16日に発表されたJPモルガン・チェースも最高益です。「100年に一度の恐慌」論はウソだったのか?誰しもがそう思いたくなるような数字です。
残存者利益、史上最高レベルの株式・債券発行、異常に広い売買スプレッド
ここは冷静にならなければなりません。筆者の結論から言うと、「今回良かったからといって完全に景気が復活しているわけではない」ということになりますが、それを知るためにはまずこの4-6月の市場状況がいったいどのようなものであったかを見なければなりません。
まず、4-6月は「金融市場」にとってはけっして悪い時期ではなかったということです。「実態景気」はようやく「『下げ止まり』が見えてきたか」というところでしたが、金融市場は実はかなり盛り上がっていました。
株式市場を見ると、米S&P500指数が+15.2%、NASDAQ指数は+20.1%、独DAX指数は+17.7%、日経平均株価も+22.8%、香港のハンセン指数にいたっては+35.4%と、四半期ベースの上昇率としては「史上最高水準」の上昇を見せていました。
このような好調な環境の下、企業による株式の「新規発行」も史上最高レベルとなり、投資銀行・証券会社は過去最大規模の「株式引受手数料」を手にしています。多くの企業が不況で体力を消耗する中、なんとか市場環境が良いうちに増資を行ってしまおうという動きが、ここ数ヶ月間かなり盛り上がったためです。
債券関係のビジネスも、こうした企業の「体力回復」姿勢にもかかわらず好調でした。普通に考えれば、企業は借金の返済を最優先してとても社債などを発行するような状況ではないため、債券ビジネスが儲かるはずはないと思えますが、そうならなかった最大の理由は、企業に変わって国が大量に国債を発行するようになっていることです。金融機関への資本注入や財政発動には「カネ」がかかりますが、そのお金を政府が調達するには増税するか、国債を発行するか、景気が良くなって税収が増えるのを待つか、しかありません。現状では国債発行がもっとも手っ取り早いので、これも史上最高レベルにまで増えています。
ただ国債の引受手数料は社債に比べれば小さいので、収入は減っています。しかしそれを補って余りあると思われるのが、最近の「異常に広い」債券の売買スプレッドです。筆者のようなファンドマネージャーが債券を売買する時は証券会社を相手に行うことになるのですが、昨年のリーマン破綻以降、その売買のコストが非常に高くなっています。つまり「債券を買いたい」という時は高い値段で買わされ、「売りたい」時は安い値段で買い叩かれるということが多くなっているということです。これはとくに社債市場において顕著で、金融機関の債券などリスクの高いものについては、売買スプレッドが20%も開く(証券会社がファンドマネージャーから買う値段の方が、ファンドマネージャーに売る値段よりも20%も安い)ことも珍しくはありません。
このように売買スプレッドが広がっているのは、主要プレイヤーであったヘッジ・ファンドが壊滅的打撃を受けたため、「リスクの高い債券」に対する買い手が極端に減っているということもありますが、もうひとつ、投資銀行・証券会社の数が減っていることも見逃せません。とりわけリーマン・ブラザーズとベア・スターンズが消滅したことの影響は大きく、市場は少数のプレイヤーによる「独占」に近い形になっています。そのため、値段の交渉力はゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースといった今回の危機のなかで相対的に傷が浅い「残存者」に集中し、その他のプレイヤーが不利をこうむりやすい状況になっているような気がしてなりません。
長続きはしない見通し
以上長々と書きましたが、要するに4-6月期のゴールドマン・サックス、JPモルガンの業績がひじょうに良かったからといって、「景気が回復している」と言える状況ではまったくないということです。株式市場が再び混乱すれば企業は増資どころではなくなり、今回の好業績の最大要因であった「引受」、「トレーディング」といった部門の収入は再び激減しますし、そもそもこの2社は「超勝ち組」ですから、ここだけを見て全体を語るのもムリな話です。
「金融システム全体の状況」は、この2社の業績のみから推し量ることはできません。住宅市場がいっこうに回復しないことから考えて不良債権が増え続けていることは間違いなく、しかも失業者がどんどん増えていますから、状況はますます悪化しそうです。こうした投資銀行が「トレーディング」で稼いでいる裏には、取引コストの上昇に悩まされている投資家が裏に多くいるということでもあります。彼らが稼いでいるから景気にとってプラスかというと、必ずしもそうとはいえません。
どうも今回の彼らの好決算は、信用バブルがもたらした経済・金融の「歪み」を色濃く反映したもののような気がしてなりません。信用バブル崩壊前までの投資銀行の利益は、住宅市場の好調を媒介として、経済全体の利益とリンクしていました。しかしながら、今回の好決算にはそうしたポジティブな面が少なくとも筆者にはまったく感じられません。今回の数字によって株式市場が一段と上昇し、それによって長期金利が再び上昇するようなことになれば、想像を超える混乱が再び起こる可能性が高まってきます。
今回のゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェースの好決算は、市場のムードを盛り上げる可能性は高いです。ただ、経済にとっては必ずしも良いことではなく、むしろいたずらな金利上昇につながればマイナス、と筆者は見ています。筆者の株式市場に対するスタンスは、「売り上がり」で決定です。
グローバル債券ファンドマネージャー 鈴木 英寿