今回のコラムでは、なぜ世界の景気がここまで悪くなったのか、そのプロセスについて解説し、その流れを踏まえると今後どのように進んでいくと考えればよいかをまとめてみたいと思います。
2003~2007年の景気は「人類史上稀に見る好景気」
今回の景気の「墜落」の原因は、「サブ・プライム」、「リーマン・ブラザーズ破綻」など様々なことが言われていますが、要するに「アメリカ人が過剰消費を続けることがもうムリになった」ことだと考えると一番分かりやすいと思います。
2000年にITバブルが弾けた後、世界の景気は大変厳しい状態が数年間続きましたが、それが底打ちしてからは「人類史稀に見る」といっても過言ではないほどの良好な状態となりました。その最大の特徴は、米英を中心とした不動産バブルとBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)を中心とした新興国が急速に発展したことです。
このうちBRICsの台頭は、そもそもは中国が非常に安価な労働コストをテコにして先進国の企業を誘致し、強烈な輸出ドライブをかけたことから始まっています。中国は貿易で稼いだお金で国内のインフラを急ピッチで整備し、どんどん生活水準を上げていきました。そして、この「中国の爆発的な需要拡大」への期待が資源・食料品価格の急騰につながり、ロシアやブラジルといった「資源大国」への資金流入を促すといった構図です。
好景気は「米国の過剰消費」が牽引
この中国の「輸出ドライブ」は基本的にはアメリカが対象です。日本の戦後の高度成長もドイツの復活も、すべてアメリカへの輸出がその最大の牽引役であったように、80年代の韓国や東南アジアの急成長もアメリカが支えました。アメリカ経済はそれだけ巨大なのです。
アメリカはこの間積極的に輸入しました。その原動力となったのが不動産ブームです。自宅の価値がどんどん上がり財産が殖えたことで財布の紐が緩むのはもちろん、少しお金に余裕がある人は投資用の不動産を購入し、それでまたお金を儲けていきましたので、アメリカの消費は非常に好調になりました。それに加えてこれまでとはケタ違いの安価な商品が新興国からどっと入ってきますから、消費はますます盛り上がります。
これにさらに輪をかけたのが金融機関です。不動産を持っている人は財産が殖えているので信用力が上がり、今までよりも大きなお金を借りられるようになります。これにより金融機関同士の貸出競争が激化し、サブ・プライム、証券化、レバレッジド・ファイナンスといったこれまでなかったような手法を使って、あの手この手で貸し出しを伸ばそうとするようになりました。これにより消費はますます「過剰」な状態になっていきます。この過剰消費の行き先の多くは海外からの輸入品に向けられますので、新興国はますます発展します。
ここまでは世界中ほとんどすべての人がハッピーでした。
過剰消費=将来分の「先食い」であることに気づいたら
しかしすべての人がハッピーという状態は長くは続きません。まず米ドルの信用の問題が不安視され始めました。中国を初めとする新興国は、貿易で貯まりに貯まった米ドルがいくらなんでも多すぎると感じ始め、米ドルを売ってユーロ等を買い始めました。また、新興国の将来的な需要を当て込んだ投機資金が資源・食料品の市場に大量に流入し、インフレが起こり始めました。米FRBを初めとする中央銀行はインフレ対策のために金利を引き上げはじめました。
すると資金の流れに重大な変化が起きます。借金をしている人は金利が上がり、支払う金利がどんどん増えていきます。そうなると新規で借金はしにくくなりますし、中には金利だけで精一杯で元本は返せないと言う人も出てきます。借金がしにくくなれば不動産投機も徐々に沈静化し、次第に不動産相場全体が上昇しなくなってきます。
人々、そして金融機関も含めて、ここで初めて「借金は返さなくてはならないもの」であることを意識し始めました。そしてさらに住宅価格が下がり始めると、流れは一気に逆流します。値段が下がったので家を売っても借金をすべては返せない人が増えて不渡りが続出、金融機関は多額の損失計上を余儀なくされ、業界では「危ない金融機関にはお金を貸せない」という雰囲気になってきます。
こうして2008年3月にベア・スターンズ、9月にリーマン・ブラザーズと、米国の5番手・4番手の投資銀行が破綻しました。新興国の急発展を伴う「人類稀に見る好景気」はもとを正せば、単に「本来はコツコツ貯めてから使うべきお金を、安易な『借り入れ』で先に使ってしまった」ことから始まっていたのです。
「借金で首が回らない」世界経済
こうなってしまうともう世界は「借金で首が回らない状態」です。とりあえず金利を払わなければ破産してしまう、稼ぎがなければ手元の資産を売ってなんとか金利は払う、できれば元金も少なくしていきたい、だから普段の生活は節約する・・・、本当に多くの人がそう考えています。それも仕方ありません。本来は今使うべきお金は、既に借金した時点で使われてしまっているからです。
そして悪いことに、そう考える人が増えれば増えるほど景気は悪くなっていきます。節約する人が増えれば景気は確実に悪くなりますし、不動産を売りたい人、差し押さえられて強制的に売らされる人が増えれば不動産の値段もさらに下がります。金融機関もお金を貸しても返ってこないリスクを嫌がって、「健全な借り手」にもお金を貸しにくくなります。いわゆる「貸し渋り」です。そうなると企業も将来への投資でお金を使うよりも、とりあえずは保険として手元にお金を置いておこうと考えます。
企業が投資を減らすと失業が増えます。失業する人が増えれば、お金を返せなくなる人が増えます。お金を返せない人が増えると、ますます金融機関はお金を貸したくなくなります・・・悪循環です。
現在の世界経済の状態は、日本で90年代後半から見られている悪循環が確実に起きていています。こうした「借金返済第一=ディレバレッジ」の時代はまだ始まったばかりです。米国の「オプションARM」という日本のバブルの頃に流行った「ゆとりローン」そっくりな商品の金利が劇的に上昇するのは来年以降です。
そうした意味では、足元で語られる「V字回復」ストーリーはほとんど実現可能性がないと筆者は見ています。今起きていることは、「パニック」から「普通の大不況」までの回復です。これが「中程度の普及」まで回復することすら当面は難しい。そして日本と同様に、けっして「好況」にまでは至らない・・・、そんな風に見ておいた方がよいと筆者は考えています。
グローバル債券ファンドマネージャー 鈴木 英寿